大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12839号 判決 1999年1月25日
原告
西村和美
被告
佐々木康之
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金四三四二万四三四九円及びこれに対する平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の負担とし、その三を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自金一億七〇五〇万〇一五〇円及びこれに対する平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告らに対し、交通事故により損害を受けたと主張し、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び証拠(甲二の二ないし五、三の四と五、乙一の二と三、八、弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 日時 平成六年六月一八日(土曜日)午後七時ころ(天候雨)
(二) 場所 大阪市平野区長吉長原四丁目七番三一号先交差点
(三) 事故車両 普通乗用自動車(なにわ五七て八五一〇)(以下「被告車両」という。)
運転者 被告佐々木康之(以下「被告佐々木」という。)
所有者 被告株式会社松雲堂
(四) 事故車両 足踏み式自転車(以下「原告車両」という。)
運転者 原告
(五) 事故態様 信号機により交通整理がされていない交差点で被告車両と原告車両が出会い頭に衝突した。
2 責任
被告佐々木は、最高速度が時速四〇キロメートルに規制されているにもかかわらず、時速六五キロメートルで進行したため、被害車両を避けられずに衝突した過失があり、原告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。
被告株式会社松雲堂は、被告車両の所有者であり、原告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償義務を負う。
3 原告が負った傷害と治療
(一) 原告は、本件事故により、右側頭骨骨折、両側脳挫傷、脳内血腫、右硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、右大腿骨、右腓骨骨折などの傷害を負った。
(二) 原告は、治療のため、次のとおり入通院をした。
(1) 大阪府立病院に、平成六年六月一八日から同年一二月二六日まで一九二日間入院した。
(2) 医療法人ペガサス馬場記念病院に、平成六年一二月二六日から平成八年一一月一日まで六七七日間入院し、同月二日から平成九年二月一三日まで(実日数一二日)通院した。
(3) 医療法人宇野眼科に、平成九年四月一六日から同年一〇月一七日まで(実日数五日)通院した。
(4) 島津歯科医院に、平成九年一〇月一八日に通院した。
(5) 大阪府立病院に、平成九年一一月一二日から同年一二月九日まで(実日数三日)通院した。
4 後遺障害
原告(昭和二三年七月三〇日生まれ、本件事故当時四五歳)は、平成九年二月一三日、症状固定した(当時四八歳)が、自覚症状として、ろれつ困難、歩行障害があった。他覚症状として、失語(やや了解困難)、構音障害(聞き取りやや困難)、痴ほう、四肢まひ、頭蓋骨の変形、脱毛、歯の変形があった。また、肩関節、股関節、膝関節に機能障害があった。介護看護が必要とされた。
また、自覚症状として、両眼に視力及び視野の障害があった。他覚症状として、視力低下が著しく、左同名半盲が伴い、視障害が強く、両眼視検査で立体視障害が見られ、眼底検査で両眼に軽度の動脈硬化と右眼には点状出血が認められた。視力は、右〇・二(矯正後〇・三)、左〇・一五(矯正後〇・五)であった。
自動車保険料率算定会は、次のとおり事前認定をした。
頭部神経症状は五級二号に、視力障害九級三号と視野障害九級一号は八級相当に、右膝関節機能障害は一二級七号に、醜状障害は七級一二号にそれぞれ該当し、併合三級である。
三 中心的な争点
過失相殺
後遺障害(特に、将来の付添看護費)
第三判断
一 過失相殺
1 被告らの主張 原告には相当の過失
原告が進行した道路には一時停止の規制があるにもかかわらず、原告は、一時停止をしないで交差点に進入した。したがって、原告の過失は重大である。
2 原告の主張
原告は、一時停止をし、左右の安全を確認した。しかし、被告佐々木は、最高速度をはるかに越える時速八〇キロメートルで進行した。したがって、原告に過失はない。
3 裁判所の認定 原告対被告らは四〇対六〇
4(事実)と5(評価)に記載のとおり。
4 証拠(乙一の一〇と二一と二七、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。(別紙図面参照)
(一) 本件事故現場の道路の状況は、市街地であり、前方の見通しはよく、アスファルト舖装され、平たんで、湿潤していた。東西道路の最高速度は、時速四〇キロメートルに規制されていた。本件事故当時は、暗くなるところであった。
(二) 本件事故現場付近は、東西道路と南北道路が交差している交差点である。東西道路は、中央線の標示がある優先道路であり、片側一車線の道路であり、その幅員は約三メートルである。南北道路は、交差点の北方の南端に、一時停止の標識があり、幅員は四ないし五メートルである。
被告は、東西道路を西に向かい、原告は、南北道路を南に向かっていた。
(三) 被告は、前照灯をつけず、スモールランプを点灯させ、時速約六五キロメートルで、東西道路を西に向かって進行した。
被告は、交差点の約五五メートル手前で、左右の見通しの悪い交差点を見たが、交通量が少ないので、減速をしないで進行をした。
そして、交差点の約二五メートル手前で、交差点の右方から被害車両が交差点に進入してくるのを見つけ(その車間距離約二六メートル)、急ブレーキをかけたが、間に合わず、約二五メートル進み、交差点中央の西行き車線上で被害車両と衝突した。
加害車両は約一〇メートル進んで停止し、原告は、その前方約二メートルの地点に転倒した。
(四) なお、原告は、交差点に進入する直前に一時停止をし、左右を見た旨の主張をし、証人西村秋雄は同旨の証言をする。
しかし、一時停止をして、きちんと左方を見れば、加害車両が進行してくるのを発見できたはずであるから、証言をそのまま採用することはできない。
また、原告は、被告が時速約八〇キロメートルで進行した旨の主張をするが、これを認めるに足りる客観的証拠はない。
5 これらの事実によれば、被告は、最高速度を越えて進行した過失がある。
また、原告は、左方をきちんと見なかった過失がある。
そして、原告と被告の過失を比べると、被告は優先道路を進行しているし、原告は左方をきちんと見ていれば容易に本件事故を避けられたから、原告の過失は大きいといえなくもない。
しかし、被告は、見通しの悪い交差点付近を、最高速度を約二五キロメートルも越えて走行しており、自動車の運転者として、基本的な注意義務に違反しているから、やはり、被告の過失が大きいというべきである。
したがって、また、原告と被告の過失割合は、四〇対六〇とする。
二 損害
1 治療費
(一) 原告の主張 負担分の合計三九五万二一〇四円
(二) 裁判所の認定 合計七六八万一〇一四円
証拠(甲三の一〇、六の一と二、七、弁論の全趣旨)によれば、次の治療費が認められる。
(1) 大阪府立病院分 二六三万〇六〇〇円
(2) 馬場記念病院分 二七七万〇七九九円
(3) ユーアイメディカルサービス分 一八九万五六一五円
(4) 将来の歯科治療費 三八万四〇〇〇円
2 付添看護費
(一) 原告の主張 合計四二五八万四三七五円
(1) 入院分 五五四万六五〇〇円
(2) 通院分 三万六〇〇〇円
(3) 将来分 三七〇〇万一八七五円
原告は、常時介護を要する。
(二) 裁判所の認定 合計二〇六八万八四八一円
入通院分は合計二一八万八〇〇〇円と認められ、将来分は一八五〇万〇四八一円と認めれるが、その理由は、入通院分については(三)のとおり、将来分については(四)と(五)のとおりである。
(三) 証拠(乙一二、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故により、重い傷害を負い、後遺障害が残ったこと、したがって、入院中、親族の看護をまったく必要としなかったとまではいえないこと、ただし、入院した病院のスタッフは完全看護をし、親族に対し看護を求めなかったことが認められる。
そうすると、入院付添費として一日二五〇〇円(入院八六八日)、通院付添費として一日一五〇〇円(通院一二日)を相当と認める。
したがって、入院付添費は二一七万円、通院付添費は一万八〇〇〇円と認められる。
(四) 証拠(甲四、乙一二、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 症状固定時の自覚症状、他覚症状などは、前記認定のとおりである。
(2) 平成九年五月一四日には、原告はすでに退院しているが、日常生活の状況は次のとおりである。
今いつかはわからないが、どこにいるかはわかる。いま聞いたことは忘れるし、昔のことは覚えていない。簡単な計算はできる。自分で食事をすることができるが、上手には食べられない。衣服は自分で着られないが、用便はできる。家の人と話はできる。興奮したり乱暴したりしないが、ろれつはまわらず、普通に話はできないし、話の内容はわからないが、耳は聞こえる。文字が読めず、左眼が不自由で、両手がうまく動かず、右足もうまく動がない。めまいはあるが、意識を失うことはない。
食事とリハビリ以外は、ベッドで寝ている。
(3) 馬場記念病院の医師は、中等度の痴ほう、てんかん、歩行障害のため、一生涯介護を要するが、介護割合は、おおむね五〇パーセントであると判断している。
(五) これらの事実によれば、原告は、一応、動いたり、話したりすることができるから、常時介護を必要としないが、一人で生活することは難しいと認められる。そして、介護の程度を判断するのはきわめて困難であるが、医師の意見を参考にし、さらに、日常生活状況を併せて考えると、常時介護を一〇〇パーセントすると、五〇パーセントの介護が必要であると認めることが相当である。
したがって、将来の付添看護費として、一日五〇〇〇円に平均余命年数三六年(二〇・二七四五)を乗じ、その五〇パーセントである一八五〇万〇四八一円と認められる。
3 入院雑費
(一) 原告の主張 一一二万八四〇〇円
(二) 裁判所の認定 一一二万八四〇〇円
一日一三〇〇円が相当である。
4 通院交通費
(一) 原告の主張 二万二五六〇円
(二) 裁判所の認定 二万二五六〇円(弁論の全趣旨)
5 休業損害
(一) 原告の主張 一四〇四万七八九九円
原告は、平成六年一月一日から本件事故日である同年六月一八日まで二四四万五〇〇〇円の収入を得ていたが、症状固定日までまったく仕事をすることができなかった。
(二) 裁判所の認定 四五八万三五九四円
前記認定及び証拠(乙一三の一と二、弁論の全趣旨)によれば、原告は、平成五年に、一七一万八八四八円の収入を得ていたこと、原告は本件事故日から症状固定日である平成九年二月一三日までの約三二か月の間まったく仕事をすることができなかったと認められる。
したがって、休業損害は、四五八万三五九四円と認められる。
6 入通院慰謝料
(一) 原告の主張 三九四万円
(二) 裁判所の認定 三〇〇万円
7 後遺障害慰謝料
(一) 原告の主張 三〇〇〇万円
(二) 裁判所の認定 一八〇〇万円
8 逸失利益
(一) 原告の主張 六九二六万〇六二八円
原告は、症状固定時から就労可能年数の一九年間、労働能力を一〇〇パーセント喪失した。
(二) 裁判所の認定 二二五四万四四一〇円
前記認定によれば、原告は、症状固定時から就労可能年数の一九年間(ホフマン係数一三・一一六)、労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認めることが相当である。
したがって、逸失利益は、二二五四万四四一〇円と認められる。
なお、被告らは、原告の神経症状については五級の認定があるから、労働能力喪失率は八〇パーセント程度であると主張する。しかし、神経症状についてはそのとおりであっても、ほかに、視力及び視野障害、右膝関節機能障害、醜状障害があることを考えると、仕事をすることは不可能であるといわざるを得ず、労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認めることが相当である。
三 損害の合計 七七六四万八四五九円
四 過失相殺後の損害額 四六五八万九〇七五円
五 損害のてん補
1 てん補 六一六万四七二六円(乙九)
2 てん補後の残金 四〇四二万四三四九円
六 弁護士費用 三〇〇万円(主張八〇〇万円)
七 結論
1 損害金残金 四三四二万四三四九円
2 遅延損害金 本件事故日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金
(裁判官 齋藤清文)